12月15日、市民グループ「フクシマ・アクション・プロジェクト」が、IAEAに対し要請書を提出しました。

2012年12月15日

IAEA事務局長 天野之弥様

IAEAに「福島原発事故を過小評価せず、
被災者の声に真に応えることを求める」要請書

フクシマ・アクション・プロジェクト
共同代表 小渕 真理
武藤 類子
関 久雄

< はじめに >

この度、貴機関IAEA(国際原子力機関)が福島県の「環境創造センター」創設の一環として県内2 か所に研究拠点を設置することを知りました。私たちはこれまでのIAEAのあり方からIAEAは世界的な原子力の推進機関であり、その平和利用を強調し、危険性を矮小化してきた機関と捉えています。そのような強大な機関が福島県にやって来て、いったい何をしようとするのでしょうか。私たち原発被災者のためになるのかなど多くの疑問があり、その真意に懸念をもっています。福島原発事故に関しては私たち被災者をないがしろにさせないために、私たちはフクシマ・アクション・プロジェクトを立ち上げました。本日、ここに福島原発被災者からの要望を提出いたします。2013年1月中に文書回答をいただきたくお願いいたします。

● 福島原発事故と福島県民の暮らし

2011年3月11日、東日本大震災としての福島原発事故によって美しく自然豊かな私たちのふる里・福島はそれまでの生活と環境が根底から覆されました。マグニチュード9.0という地震と津波はすさまじいものでしたが、これは誰も止められない天災です。しかし、それに伴って起きた福島原発事故は原発さえ建設しなかったら起きなかったものであり、あきらかな人災です。

未曾有の原発事故によって放射能被害を受けた私たち福島県民は、生きるために最も大事である安全な空気・水・食べ物を多少なりともそれらの全てを失ってしまいました。自然の恵みを生活の糧に出来ない環境になってしまいました。先人たちから善とされ是とされてきた自給自足、地産地消、自然遊牧、有機農法などは打ち砕かれてしまいました。警戒区域など高線量地域の農業・酪農・漁業の多くはその道を断たれてしまいました。
なによりも子どもたちから健全に育つ自然環境と明るい未来を奪ってしまいました。子どもたちに取り返しのつかない膨大な「負の遺産」を与えてしまったことが悔やまれます。子どもたちを放射能被害から守ることこそ急務です。子どもたちを守らずして福島県の、日本の、否、人類の未来はないと言えるでしょう。

● 福島原発事故はまだ終息していない。

事故から1年9カ月たった今も、爆発を起こした1号機から4号機はいずれも炉心には近づけず、全容は明らかになっていません。中でも4号機は建屋そのものが傾いており、頻繁に起こっている余震にどれだけ耐えうるのか予断を許さない状況です。私たち県民は余震が起きるたびに「第2のフクシマ」の恐れにおびえています。そこがくずれたら今回の事故の何倍もの放射能汚染によって東京はおろか日本全国壊滅に追い込まれ、世界規模の放射能汚染がさらに深刻になると予測されています。
こんな中、昨年12月17日、日本政府は「福島原発冷温停止状態」として終息宣言を出しました。とても信じられません。事故は終息してはいません。今も毎時、1千万ベクレルもの放射能が空に海に放出され続けています。私たちは外部被曝、内部被曝による低線量被曝に常時さらされ命までが脅かされています。
処分法の定まっていない核廃棄物の問題もあります。これまで溜まり続けてきた上に、事故後の除染作業による廃棄物は家庭の庭先や校庭の一隅に山積みされブルーシートで覆われてあちこちに放置されています。日本は地震王国であり国土には縦横無尽に活断層が走っており、原発は一基たりともあってはならない所なのです。

事故当時、国や福島県は国民に知らせるべき情報の隠ぺいや浪江町民、飯舘村民への避難指示の遅れなどで国民に無用な放射能をあびせてしまいました。ヨウ素剤配布もほとんど行われませんでした。行ったのは「ただちに健康に影響ない。」「年間100mSv以下は大丈夫」という「安全キャンペーン」でした。目にも見えず、においもない放射能への恐怖と体制側からの「安全キャンペーン」のはざまで、私たち県民は揺れ動き、悩み、家族や仲間との間でさまざまなあつれきやいさかいも生まれました。境界線の一本の線引きで町内分断や差別がおきました。

事故後、突然、着の身着のままでふるさとを追われ、非人間的環境の避難所生活から、その後、狭くて不自由な仮設住宅や借り上げ住宅に移り、先の見えない生活を強いられている人たちがいます。こどもを放射能被害から守るため、取りあえず母子だけが避難し家族分断に追い込まれている人たちもいます。このように強制避難や県内外への自主避難を強いられ家があっても帰れない原発難民と言われる人たちが今も16 万人ほどいます。

方や、避難したくてもできない人たち、住み慣れた家のあるふるさとから離れずそこでの復興を果たそうとしている人たち、短期的保養をする人たちもいます。私たちは福島原発事故によって様々な生き方への転換を余儀なくされ、多くの家族分断や地域破壊が発生しました。

私たちはどんな生き方にしても強制されず自主選択の自由を要求します。そしてそこには安全・安心に生活を維持していくための職や社会保障などの補償も伴わなければなりません。

● 原発は全てを奪う

これらの実態は「原発は全てを奪う。」「核と人類は共存できない。」ことの何よりの証明です。原発はひとたび事故を起こせば野に放たれた放射能プルームを止める術がなく、生態系や社会体系の維持も破壊するのです。原発問題は人類にとって最大・最優先課題と言えます。

IAEAには原発即時廃炉に向けての技術開発と放射性廃棄物の処理にこそ世界中の叡智を結集することを切望し、以下のことをIAEAへ要望します。

― 記 -
(1) 人類の最大限の叡智を集めて、福島第一、第二の原発10基全てを即刻、廃炉にし、福島原発事故を真に終息させること。

(2) 地震王国日本、活断層や破砕帯が縦横無尽に走っている日本国土に原発はあってはならないものである。福島原発事故の教訓を生かして、「第2のフクシマ」を起こさないように日本全国の全ての原発の再稼働はありえず、即刻、廃炉にするように日本政府に働きかけること。

(3) 福島原発事故による子ども・若者たちの放射能被害の最小化に努めること。希望する家族には子どもたちの安全地帯への避難・疎開・保養を日本政府に早急に促すこと。

(4) 福島医大が行っている子どもたちをはじめとする健康調査のデータは本人への情報開示と説明責任を果たすこと。本人や保護者の疑問や心配には充分に応えること。

(5) 3.11「福島県の被災者」全員に「健康手帳」(仮称)を配布し、必要に応じて生涯にわたる健康と生活の補償を行うように東電・日本政府・福島県に働きかけること。

(6) 被曝労働者の放射能積算量低下に配慮した廃炉技術を促進させ、新たな雇用を生み出すこと。

(7) 使用済み核燃料廃棄物の処分法を早急に確立させること。

(8) 日本政府と共に、エネルギー政策を脱原発に転換すること。再生可能・低炭素エネルギーへの技術革新を促進し、新たな社会構築を行うこと。

(9) これまでの原発推進方針を改め、人類への放射能被害を厳しく規制し、かぎりない低減化に切り替えること。
(10) 以上の全ての事業は全ての情報公開をもって行われ、外部から不信や疑惑を招かないこと。

以上

12月14日から18日かけて実施された「フクシマ・アクション・プロジェクト」のアクション、勉強会など
http://npfree.jp/fukushima.html

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関連情報

外務省 HP
原子力安全に関する福島閣僚会議
(平成24年12月15日~17日開催)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/fukushima_2012/index.html

福島県とIAEAの間の協力に関する覚書の署名(2012年12月15日)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/fukushima_2012/fukushima_iaea_jp_1215.html

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関連ニュース

福島民友 2012年12月16日
脱原発で要請書を提出 IAEAに市民団体
http://www.minyu-net.com/news/news/1216/news5.html

脱原発を訴える市民団体などでつくる「フクシマ・アクション・プロジェクト」は、IAEAに対し、日本全国全ての原発廃炉に向けた日本政府への働き掛けや、原発事故による子どもの放射能被害の最小化などを求める要請書を提出した。(中略)

IAEAの担当者は「IAEAは盲目的に世界の電力政策を進めるためにあるわけではない。会議の目的は福島の事故について客観的かつ科学的な情報を、福島をこれからどう支援していくかのために集めることにある。皆さんの声を関係者に確実に届くようにする」と述べた。

news-log 2012年12月15日 (おしどりマコ)
【速報】IAEA天野事務局長と佐藤福島県知事との覚書
http://news-log.jp/archives/5749

福島民報(2012/12/16 11:20)
原子力安全態勢強化へ 福島閣僚会議で共同議長声明を発表
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2012/12/post_5782.html

・・・声明は「東京電力福島第一原発事故と日本の対応」「原子力安全の国際的な強化」の2つが柱。
原発事故と日本の対応では、原発事故の客観的な情報と教訓を継続的に周知することの重要性が強調された。
原子力安全の強化では、国際的に専門知識を提供し合い、国際原子力機関(IAEA)の中心的役割を強化する重要性などが盛り込まれた。(後略)

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