3.11以後、初めて国が鹿児島県川内原発を対象に実施した「原子力総合防災訓練」を監視したので、その概要を報告する。(再稼働阻止全国ネット 木村)

(鹿児島県ホームページより)
平成25年度原子力総合防災訓練について
http://www.pref.kagoshima.jp/aj02/bosai/kunren/h25gensiryokubousaikunren.html
平成25年10月11日(金曜日)10時から17時30分及び10月12日(土曜日)11時から16時30分の2日間、国主催で薩摩川内市及びいちき串木野市を中心に、県や関係市町村をはじめ、多くの関係機関や住民の方々の参加のもと、広域避難など様々な種目の原子力総合防災訓練が実施された。

訓練概要
平成25年度原子力総合防災訓練の「お知らせとお願い」(PDF)
http://www.pref.kagoshima.jp/aj02/bosai/kunren/documents/34981_20131008114158-1.pdf

【第1日】  【第2日】

【第1日】

●秘密裡に進められた防災訓練計画

原子力総合防災訓練は、9月初めに原子力災害対策本部で決定しておきながら、10月8日時点では国も鹿児島県も薩摩川内市も、ホームページにアップせず秘密裡に準備し、やっと9日の原子力規制委員会で11日・12日に実施することを確認、報道もされ出した。何か変?

●地震で川内原発2号機自動停止、東電事故を思い起こさせる

11日朝9時に薩摩川内市役所で訓練の概要を聞き、市の原子力災害対策本部を覗き、すぐ近くの原子力規制庁のオフサイトセンターの事故現地警戒本部を傍聴。川内原子力規制事務所(OFC:オフサイトセンター)は2つのスクリーンを囲ったコの字型会議室。スクリーンに九電や官邸や県や川内市の画面を表示、着席者は一人だけ。沢山の報道カメラが包囲。10時に地震発生、10時03分:警戒本部設置、10時12分:2号機原子炉自動停止、思わず緊張して傍聴。

●テレビ会議が故障?

正門危険物貯蔵庫火災発生、土砂崩れ発生、10時15分:災害対策室設置、10時35分:PAZ圏内の要援護者に避難準備を要請。10時40分:地上回線復旧でアナウンス活発化…。しかし、スクリーンが急に暗くなりテレビ会議中断。あふれていたメディア関係者も手持ち無沙汰に散っていく。会議再開は11時40分。

●自衛隊員、JNES職員、原子力ムラが多数参加

川内OFCの会議室を囲むようにして6つのチームもそれぞれで動く。プラントチーム、放射線班、実働対処班、緊急時モニタリングセンター、総括班、広報班など。会議室周りの各チーム員が行き来し、陸上・海上の自衛隊制服も数人が出入り。

●SPEEDI、応答にたらいまわし20分

SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)について、予測しているのか情報を住民に公表したか等の地元監視者からの質問に、プラントチームは広報班に広報班は質問回答係りにとたらい回ししてなかなか答えられない。
「緊急事態発生前なので住民への広報はまだ」と、回答があったのは20分後。何とも頼りない訓練実施者たち。

●災害防げるの? 壮大な無駄では!

2時間ほどOFC内の様子を傍聴して感じたのは、本当にこれで災害を防げるの?という疑い。事象発生時刻などに幅を持たせた比較的リアルな訓練で、それ故に混乱や遅れも頻繁に発生。小声の報告を議長が咎めずそのまま進行して形式的会議が露呈する場面もあった。本番時の混乱はいかばかりか、と心配になった。
これで本当に災害を防止できるか?

●要援護者の避難は45分遅れ

川内原発から5キロ程の水引地区(PAZ圏)の要援護者避難は、待てど暮らせど救急車が到着せず、「先ほど要請したからすぐに来る」と聞いた後も30分経っても現れない。結局予定より1時間ぐらい遅れて到着。元気で写真撮影をいやがった婦人は介助者かと思っていたら、その人が担架に乗せられて病院にと搬送されて出た。

●小学生も中学生も保育園児も避難するがヨウ素剤配布は避難集合地で

水引小学校では、パトカーと大型バス1台が運動場に入った。ジャングルジムで遊ぶ小学2年の男の子達がいろいろ教えてくれる。先ほど全体昼礼が終わった、小学5年がバスで連れて行かれる、ヨウ素剤は配布されていない、等と。小学5年約40名が静かに運動場に出て来て大型バスに乗り、パトカー先導で川内アリーナに向かって出発。

●川内アリーナに大型バス5台終結

原発補助金で建設された高台のドーム集合「川内アリーナ」に移ると、既に大型バス5台が並び、順次出ていくところ。中学生のバス、保育園児のバスが順次出るのを見届ける。ヨウ素剤を模したカードを全員がここで配られたという。ちょっと遅すぎるのでは。

【第2日】

●2日目は緊急事態宣言

訓練2日目も川内規制庁オフサイトセンター(OFC)に入りテレビ会議を傍聴。一般の人は別室の部屋でと一旦追い出されたが、その別室では音声が出ないと聞き、「とんでもない。防災訓練に住民を参加させないのか?」と問い詰めて、OFCに再入場。

メディア陣に交じって待機していると、11時:訓練開始、原子力災害対策本部会議が官邸で開催される。規制庁長官、首相、規制委員長が順に悠長にしゃべって非常事態宣言を発出、何とも非現実的。OFCでは、県知事も市長も、意見を問われたけれど「特にありません」と緊急時に住民の安全を願う言葉すら発せず。

●避難者の除染は形だけ!

住民安全のため3801名が避難、うち400名がバスで避難、の想定。UPZ圏から避難し放射能汚染検査をする日置市公民館を見学。バスで到着する避難者住民が公民館に入る。受付を通り、大部屋に入ってトリアージを受けて「要治療」と「治療不要」に分類される。「治療不要」組は次に1次スクリーニングで体表の線量を測定される(全身に渡り時間がかかる)。そして「除染無」と「除染有」に分類される。残念ながら除染ゾーンは看板のみ。
それにしても、バス避難者のみの移動で、交通渋滞も起こらない。もし実際に地震―緊急事態が起こった場合に、道路不通が起こらないか、道路の渋滞が起こらないか? 実際とは大分かけ離れているよう。

●沢山の疑問

2日間の原子力総合防災訓練を監視し終わって多くの疑問が湧いてきた。
・事故発生時にのんびりテレビ会議してられるか?
・地震後非常事態まで1日以上経過して東電福島原発事故の時と比べて長過ぎではないか?
・交通遮断や渋滞を考えると要援護者を含め住民避難は不可能ではないか?
・なぜSPEEDI情報を住民に提供しないか?
単純化しても非常に大変な訓練!なぜここまでして原発を動かすのか?

●原子力総合防災訓練は再稼働の露払い?

政府主催の訓練は、九電・官邸・川内規制事務所・県市の間のテレビ会議を主軸に実施し、各プレイヤーが皆「反省点多い」との言葉を残して終わった。3.11以降初めて国が実施したのは再稼働促進のためか? 規制委の田中委員長が、(防災)指針を作るのは規制委(サポートは内閣府)、実施は自治体、と話していたが、OFCでは規制庁が仕切っていた。国の縦割り分担も曖昧で、まるでテレビカメラによるショーを見せただけではないか。
これで原発14基の再稼働への道を進まれてはかなわない。批判を強めよう!

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