日刊ゲンダイ 2014年9月8日
注目の人 直撃インタビュー

福島原発告訴団の河合弘之弁護士「日本が滅ぶのは戦争と原発」
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/153151
世界で一番、原発を稼働させてはいけない国

「安倍首相は亡国の政治家です」――福島原発告訴団の先頭に立って闘う弁護士は言い切った。検察審査会は7月、東京電力元幹部3人の刑事責任を認めて、「起訴相当」の議決を下した。これを受けて検察は再捜査し、起訴すべきかを再検討する。もう一度、不起訴としても、検察審査会が再度、「起訴相当」の議決をすれば、強制起訴という運びになる。この議決の意味、今後の展開、原発再稼働に突き進む安倍政権の横暴など、多岐にわたって聞いてみた。

――検察審査会の議決、画期的ですよね。

 私は非常に感動しました。あれだけの事故を起こしながら、誰も責任を問われない。追及されないのはおかしいじゃないか、という市民感覚が、大企業寄り、権力寄りの検察の判断を覆したわけです。

――検察は大企業寄り、権力寄りですか?

 そもそも検察がなぜ、東電幹部の刑事責任を問わず、不起訴にしたかといえば、やはり身内のかばい合いみたいなものがあると思う。東電は超巨大企業で権力そのもの。原子力ムラの中核ですから、起訴するのはマズイという、悪い意味での政治判断があったと思います。そこから出発していろいろな理屈をつくった。それで、津波の予見可能性がなかったということにしたのでしょうね。

――政府の地震調査研究推進本部は02年、福島県の津波地震の可能性を発表していたし、東電も08年、最悪の場合、津波水位が15・7メートルになると試算していました。

 そもそも、予見可能性がないのであれば、どんなに被害が大きくても、責任は問えないという検察の考え方が間違っています。まず被害の大きさを見て、それを防ぐためにどれくらいの注意義務を課すべきか。これを考えなければいけない。原発の運営責任者は、普通よりもずっと重い注意義務を課されるべきなのに、検察は花火工場と原発の注意義務を同じ目で見ている。花火工場が爆発しても周辺が少し壊れるだけですが、原発は違う。検察はこうした常識をわきまえるべきです。

――検察の再捜査についてはどう見ていますか?

 検察内部でも意見が二分されていると聞いています。今度の議決には検察内部でも非常に大きな衝撃が走っていると思います。私は検察が起訴に踏み切る可能性もかなり大きいとみています。検察は信頼を取り戻すためにも、国民の支持を得るためにも、起訴すべきだ。そういう意見が内部でもあると聞いています。

――そうならなければ、国民の生命よりも原子力ムラと政府の利益が優先することになってしまう。これほどおかしな話はありませんね。

 私は二十数年前から反原発で闘っている。なぜ原発に反対するのかというと、日本は中規模以上の地震発生率が世界平均の130倍もあるんですよ。フランスやドイツにも原発はあるが地震はない。世界で最も原発が立ち並ぶのは米国の東海岸ですが、ここにも地震はない。地震が多い地域で原発を稼働させているのは日本だけです。裏を返すと、日本こそが世界中で一番、原発を稼働させてはいけない国なんです。

凍土壁もできないのにウソばかり言う安倍首相

――しかし、政府は原発がないと経済が成り立たないみたいなことを言う。

 震災後、日本は停電になると言われましたがウソでした。日本の水力、火力発電の設備能力を見れば、原発をゼロにしても火力の稼働率を50%から70%に引き上げるだけで十分、賄えるのです。で、最近では停電するぞ、という脅しは言わなくなった。その次に何を言っているかというと、原発を止めたことで、3兆6000億円の化石燃料の輸入代金が増加している。だから、国富が流出するというものですが、円安と化石燃料の価格上昇が輸入代金を押し上げているわけで、実際は1兆5000億円程度だし、輸入量自体は原発が止まった後もほとんど変わっていないのです。日本はGDPが600兆円あり、国富は3000兆円ある。海外資産も300兆円あります。年間1・5兆円が流出したところで、日本経済を揺るがすようなことにはなりません。CO2対策というのもひどい話で、CO2で国は滅びますか。日本だけ取り組んだって米国や中国が協力しなければ意味がありません。原発は違いますよ。日本だけの判断で止められるし、国民の生命を守るためにリスクを回避できるのです。

――政府は世界最高の安全基準だとか言っていますね。だから、それをクリアすれば、再稼働していいのだと。

 世界最高基準というのはウソ。そんなことを言っているのは安倍さんだけで、世界中の誰も認めていません。原子力規制委員会の田中俊一委員長だって、世界一ではない、あれは単なる政治的発言でしょうという趣旨のことを言っています。核燃料の再処理にも失敗しているし、こうなると、原発を続ける理屈はありませんね。

――それでも日本はなぜ、原発をやめないのでしょうか。

 原子力ムラが儲かるからです。電力会社はかかった原価の約103%を総括原価方式で電気代に転嫁できる。電力会社は気前のいい注文主なんです。だから、みんなひれ伏す。発電機メーカーも鉄鋼も商社もマスコミも。そこに無数の下請けと無数の労働者がいる。都合のいい意見を言う御用学者もいる。電力会社から研究費をもらえて、彼らが学生の就職の世話もしてくれるからです。政治家は献金をもらい、電力労組からは票が来る。国は電源三法交付金でカネをばらまき、自治体は言うがまま。つまり、お金の回し合いをやっているわけです。花見酒をして、飲めや歌えやとやっているようなものです。その酒はどこから来るのか。国民が払った税金と電気料金ですよ。

――その構造が3・11以後も全く変わっていないのが驚きです。

 裁判所の意識は変わってきたなと思いますが、この利権構造は岩盤です。依然として強大で今、再稼働、再稼働と巻き返しを図っている。その先頭に立っているのが安倍政権ですよ。私は安倍さんというのはウソつきだと思っている。汚染水の問題で、「アンダーコントロール」と言い切ったが、明らかなウソです。今だって毎日漏れて、凍土壁もできない。何がアンダーコントロールなんですか。そういうことをヌケヌケと言う。ウソツキ政治家です。世界最高の安全基準というのもウソ。わざと言っているのか、頭が悪くて知らないで言っているのか分かりませんけれど。

――そんな安倍政権が高い支持率を得て、イケイケです。

 私は仮に日本が滅びるとすれば、それは戦争と原発事故しかないと思う。自然災害や財政破綻は絶対立ち直ることができる。阪神淡路大地震でも、その後、被災地は前よりもきれいになった。東北も原発事故の影響を受けていないところは必ず立ち直ります。しかし、原発事故は違うのです。戦争と原発という一番危険な2つのことを推進しているのが安倍政権です。ヘタしたら国を滅ぼす。彼は亡国の政治家だと思います。歴史が判断しますよ。

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▽かわい・ひろゆき 1944年生まれ、弁護士。東大法卒。さくら共同法律事務所所長。中国残留孤児の国籍取得を支援する会会長。NPO法人環境エネルギー政策研究所監事、浜岡原発差止訴訟弁護団長、大間原発差止訴訟弁護団共同代表。

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