再稼動をめぐる30キロ圏自治体の動向
―原子力災害対策指針と地域防災計画について―

(1)はじめに
 原子力規制委員会は、「原子力災害対策指針」を明らかにし、防災対策重点区域(UPZ)を従来の8~10キロ圏から30キロ圏に拡大した。自治体は地域防災計画を策定しているが、この指針をもとに原子力に関わる防災計画を策定することになる。このことにより、これまで策定していた自治体はその見直しを、策定していなかった自治体は新たに策定する義務が生じる。

 原子力防災の最善策は、原発を稼働させないで廃炉とすることだ。政府が自治体に求める防災計画は、原発の稼働を前提としたものであり、再稼働を認めないという私たちの考えとは異なる。でも、計画を策定するのは政府でもなければ電力会社でもない。自治体であり、そこで暮らす住民だ。原子力規制委員会は、防災計画のモデル案を示すというが、再稼働をするための防災計画としてはならない。再稼働をさせないことを前提とし、原発の運転中止・廃炉に対応した防災計画を、地域住民が主導して策定するべきだ。法令によって建設された原発は、これも法令によって再稼働される。そうであるならば、その法令の枠の中にある防災計画で再稼働を阻止したい。

(2)原発と自治体のカネの関係
原発は究極の迷惑施設であり、他の迷惑施設と同様に、関係住民へはカネというアメとムチを用いて圧力をかけて推進する。原発推進のために用いられるカネは三種類に分けられる。ひとつは、一般会計の原子力関連費(1884億・2012年予算)で、主には原発・原子力関連法人(原子力ムラ)の研究費・運営費に支出される。電源開発促進税が原資とる特別会計(3460億円・2011年)は、電源三法交付金として、主に自治体のハコモノや道路建設などに使われる。

 これらの税金である原発推進費は数千億円の世界だが、もうひとつに、電気料金(15~16兆円)にふくまれるケタが違いの数兆円の推進費に注目したい。このカネが、合法的(一部不明)に原発推進のために配られているからだ。経済(業界)団体への拠出金。原発・原子力関連法人への拠出金や研究費。原発立地自治体への寄付金。マスメディアへの広告宣伝費。そして、下駄を履かせて高額となる電力会社の設備調達費。これらは、結果として原発推進のためのカネとなり、原子力ムラ内を潤滑油として循環させている。

立地自治体に配られるカネにもいろいろある。自治体が歓迎する用途が自由な固定資産税は、2011年4月1日に省令が改正されたため、原発が稼働することで高額となる。そして、自治体が求めれば電力会社の億単位のカネが、出所は匿名として立地自治体に配られる。電源三法の交付金は、電源なので水力発電に関わる交付金(以前は火力も)でもあり、発電所立地自治体には限らないが、やはり原発立地自治体に多く配分されている。ここまでのカネは合法だが、表面化しない多額の裏のカネ存在も取り沙汰されている。日本の電気料金は髙いと指摘されているが、ここに示した原発推進費がそこに含まれているので高額となるはずだ。

防災対策重点区域(UPZ)が従来の8~10キロ圏から30キロ圏に拡大されたため、関係自治体も大幅に増えた。電力会社の電気料金を原資とするカネは、これまでは、主に原発立地自治体に配られてきた。周辺自治体は皆無だとは言わないが、その額は違うはずだ。そのためか、電力会社の支配下にあり、意思を表明しない自治体の長や議員ばかりではないはずだ。立地自治体とは違う周辺自治体への働きかけが重要となる。

(福井新聞・2010年5月28日)関西電力からも02年度に美浜町へ10億円、05年度に旧大飯町へ9億円など、たびたび巨額の寄付が明らかになっている。同社は「地域との共生の観点から必要に応じて適切な協力を行っている」と一般論として寄付を認める一方、「相手方との関係や業務への影響を考慮し公表はできない」とする。

(毎日新聞・2012年8月19日)東京電力と東北電力が、福島第1原発事故後、青森県六ケ所村に漁業振興目的で計4億円を支払っていたことがわかった。両社は、隣接する同県東通村に建設中の東通原発の建設費として計上し「寄付金ではない」としているが、電気料金の算定に使うコストや人件費などの「原価」には含めていない。両社や六ケ所村関係者によると、東通原発建設に伴う追加の漁業補償交渉を両社が同村の漁協と行った際、仲介に入った古川健治村長が、漁業補償とは別に「地域振興に協力して ほしい」と要請。10年度から年2億円を5年間、両社が同村に支払うことで09年に合意し、11年5月と今年5月に計4億円が支払われた。

(朝日新聞2011年11月6日)青森県東通村が、村内で原発を立地・建設中の東京電力と東北電力から、約30年間に計約157億円を受け取っていたことが分かった。2社は「寄付金」や「負担金」として支出したと説明するが、村はこれらを予算の「雑入」に分類して見えなくしていた。使い道の詳細も明らかにせず、不透明な財政運営を続けていた。          

(3)災害対策基本法・原子力災害対策特別措置法・原子力災害対策指針と自治体
災害対策基本法第40条から45条に、都道府県と市町村はそれぞれの地域防災計画を定めるという規定がある。各自治体の長は、それぞれの防災会議(例外あり)に諮り、防災のための業務などを具体的に定める。そして、「毎年市町村(都道府県も)地域防災計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを修正しなければならない」とされる。福島第一原発の事故の結果を受け、原子力規制委員会は、災害対策基本法と原子力災害対策特別措置法に基づき、新たな指針を示した。30キロ圏内の各自治体は、災害基本法により策定した「地域防災計画」を、この指針に基づき補正(新規も)する必要がある。その期限が2012年3月末となる。

  • 「災害対策基本法」
    (目的)…防災に関し、国、地方公共団体及びその他の公共機関を通じて必要な体制を確立し、責任の所在を明確にするとともに、防災計画の作成、災害予防、災害応急対策、災害復旧及び防災に関する財政金融措置その他必要な災害対策の基本を定めることにより、総合的かつ計画的な防災行政の整備及び推進を図り、もつて社会の秩序の維持と公共の福祉の確保に資することを目的とする。

  • 「原子力災害対策特別措置法」(1999年9月30日の東海村JCO臨界事故を動機に制定)
    (目的)原子力災害の特殊性にかんがみ、原子力災害の予防に関する原子力事業者の義務等、原子力災害に関する事項について特別の措置を定めることにより、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律、災害対策基本法、その他原子力災害の防止に関する法律と相まって、原子力災害に対する対策の強化を図り、もって原子力災害から国民の生命、身体及び財産を保護することを目的とする。

  • 「原子力災害対策指針」
    (前文)本指針の目的は、国民の生命、身体の安全を確保することが最重要という観点から、住民に対する放射線の影響を最小限に抑える防護措置を確実なものとすることにある。この目的を達成するため、本指針は原子力事業者、国、地方公共団体などが原子力災害対策に係る計画を策定する際や対策を実施する際に、科学的、客観的判断を支援するために定める。

(4)原子力災害対策指針の主な内容
指針の特徴は防災対策重点区域の拡大であり、21道府県135市町村、対象人口は約480万人となる。実際の汚染領域とは別だが、それでも当事者となる住民と自治体が大幅に増えている。

●水素爆発などによって大量の放射性物質が放出した過酷事故を想定
●防災対策重点区域(UPZ)を従来の8~10キロ圏から30キロ圏に拡大。
●5キロ圏/原発事故が起きた際に直ちに避難する「予防防護措置区域」(PAZ)。
●30キロ圏/を事故対策が必要となる「緊急防護措置区域」(UPZ)。
●15道府県45市町村から、21道府県135市町村に拡大、対象人口は約480万人に。
●甲状腺被曝(ひばく)を防ぐ安定ヨウ素剤の配布を50キロ圏でも検討
●オフサイトセンター(OFC)=事故時の対応拠点の改。原発から5~30キロに設置し、30キロ以上離れた場所に複数の代替施設を確保。従来の住民への連絡手段・避難方法・被曝医療体制の確保から、放射能汚染などにも耐えられるよう改修・防災訓練。
●未定部分=規制委員会で検討する/国か自治体か予算・住民避難の判断基準。

(5)地域防災計画の可能性と限界
 各自治体は、「地域防災計画」を策定し、住民を災害から防ぐ義務がある。災害が発生し、また発生するおそれがあると判断した場合には、この計画に沿って避難等が実行される。大事なことは、机上の計画ではなく、実際に実行できる計画とすることだ。そして、実行できる計画であるとしても、住民を災害から防ぐことができるのかどうかということも大切となる。原子力規制委員会が示した指針は、原発を再稼働させるのが目的だ。この指針に基づいた地域防災計画を策定させ、再稼働の条件のひとつとなる防災対策が整ったとするものであり、内容は二の次となる。

 防災は二つの面がある。ひとつは災害を発生させないため何が出来るか、どうすればいいのかとなる。そして次は、災害が発生することを防ぎようがないとするならば、その被害をいかに少なくするかとなる。防ぐことが難しい地震などの自然災害は別として、原発事故は人災であり、限界はあるが防ぐことは可能となる。私たちが福島第一原発という過酷原発災害から学んだことは、原発を稼働させないことが原発災害を可能な限り防ぐ唯一の方法だということだ。原子力防災を義務付けられた地域防災計画を策定するならば、原発を再稼働させないということを前提とした内容とするべきだ。

(6)原子力安全協定について
災害対策基本法は、原子力施設は中央の行政庁だけが統一した規制(監督)をするという、国の責務を定めている。一方の自治体の責務は、住民の立場で原子力事業所の安全施策実施状況を確認することだが、この目的のために地元の県、所在市町村、および隣接(周辺)市町村が、原子力事業所(電力会社等)と結ぶ協定に「原子力安全協定」(名称は他にも)がある。安全協定は、「法的な規制権限を持たない自治体が、住民の安全確保や周辺環境の保全を目的として原子力事業者と結んでいるもので法的な拘束力を持たない」(『原子力防災パンフレット』自治労)と、説明する。

 立地自治体に限らないのは、一部の隣接自治体においても立地自治体同様の安全協定を締結しているからだ。北海道の泊原発は、立地する泊村以外に共和町、岩内町及び神恵内村を加えて地元自治体として、北海道電力と「安全協定」を締結している。協定の内容は、①周辺環境における放射線の共同監視②異常時等における情報の迅速な連絡・通報義務③地方自治体による立入調査・安全措置要求の受け入れ④施設の新設または増設・変更に対する地元の事前了解(再稼働)などがある。これらの内容は、運転を前提としたものだ。

 茨城県下の自治体も、東海第二原発をはじめとした各原子力施設と完全協定等を締結しているが、いろいろな違いがある。原子力安全協定でも、所在市町村と隣接市町村ではその内容に違いがあるし、隣々接市町村との間で結ぶのは安全協定ではなく、「通報連絡協定」となっている。

(東海村「原子力施設周辺の安全確保及び環境保全に関する協定」の例)
●放射性廃棄物の放出量規制・排気、排水中の濃度及び放出量について管理目標値を決め規制。
●新増設計画・原子力施設の新増設等については、県及び所在市町村の了解が必要。
●立入調査・必要に応じて施設への立入ができる。
●安全上の措置・立入調査の結果必要と認めたときは使用停止や改善を求めることができる。
●連絡の義務・各事業所において事故や故障等があった場合、適時・迅速に県や東海村への通報連絡が義務付けられている。
●安全協定推進協議会・協定の円滑な推進をはかることを目的に種々の細目などについて協議。
●防災対策・防災体制の充実強化を図るとともに、地域の原子力防災対策に積極的に協力する。

(7)安全協定に「再稼働には自治体と地域住民の同意」の項目を
自治労は協定の内容として以下の項目を例示している。「放射線測定、緊急時の通報連絡、運転情報の定期的な報告、情報公開の義務付け、品質保証の努力、風評被害を含めた損害賠償、自治体の立入調査権、措置要求権、施設の新増設や燃料輸送計画の事前了解・協議、運転再開時の協議」(『原子力防災パンフレット』)というものだ。ここに示された項目はそれぞれが重要なものだが、これらの項目の内容を保証するには、正確な情報の開示と、それらの情報へのアクセスが重要となる。手を加えた情報ではない生の情報の公開を義務付けるとともに、誰でも利用可能な『生データ』への『アクセス権』が、協定締結の前提となるだろう。

 東海村の安全協定は、「原子力施設の新増設等については、県及び所在市町村の了解を必要」と、自治体(住民ではない)が認めなければ原発の新設ができないという項目がある。再稼働には影響しないのだが、直接再稼働にかかわる内容を加えた安全協定を求める運動もある。「(志賀原発)30キロ圏の氷見市・七尾市・中能登町・羽咋市に対する〈原発稼働への事前同意権を含む安全協定締結〉を求める統一申し入れを、のべ50名が参加してはじめて実施することができた」(『脱原発、年輪は冴えていま』七つ森書館)とある。自治体と住民(議会とも)は、再稼働の同意権を持つべきだというものだ。

 議会でもこの問題を取り上げている。雲南市議会島根原発対策特別委員会(委員長報告2012年10月1日)は、再稼働への4条件を定めている。①福島第一原発事故の完全収束と原因究明②国の体制整備と30キロ圏の「緊急防護措置区域」(UPZ)決定③市の防災計画の見直しと避難対策の確立③30キロ圏の自治体、地域住民の同意。というものだ。

(8)カギを握る周辺自治体と住民
電力会社との原子力安全を締結することは、その項目の内容によっては、再稼働を阻止する一歩となるだろう。過剰な期待はしてはならないが、安全協定が役に立つことは間違いない。でも、その協定の内容が役に立つものであればあるほど、電力会社はその締結を拒否することにもなる。その矛盾の解決には、求める協定の内容をひろく社会化し、地域住民の正当な求めを電力会社が拒否をしている姿を広く知らせることだ。

 もうひとつ大切なことは、安全協定とその前提となる地域防災計画を、行政や議会(議会)任せにするのではなく、地域の住民が直接働きかけることだ。自治体施設の電気の供給元が、特定規模電気事業者(PPS)からとなる例が増えてか、電力会社の自治体への影響力も低下している。特にカネがあまり配られていない周辺自治体は、かなり自由な判断ができるはずだ。

 加えて、立地自治体に限らない福島第一原発事故の汚染の現実が、首長・議員には、自分たちの自治体が責任を負うことの恐怖を覚えている。それにしても原発は高額となる。原子力安全協定、原子力安全協定にかかわる経費も多額となり、すべてが原発推進の経費となっている。

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再稼働阻止全国ネットワーク・資料 2012年11月10日
(反原発自治体議員・市民連盟 布施哲也)
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