琉球新報 2015年8月11日 6:02
<社説>川内原発再稼働 「安全」欠いた見切り発車だ
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-247095-storytopic-11.html
放射性物質が飛散し、甚大な被害をもたらした東京電力福島第1原発事故は収束していない。大津波への対処策を怠った事故原因の究明も不十分で、責任の所在もあいまいなままである。九州電力川内原発(鹿児島県)の1号機が11日再稼働する。新たな規制基準の下で動き始める最初の原発となる。
日本中で停止していた原発を再稼働させるのは、世界を震撼(しんかん)させた過酷事故の教訓に背を向けたと言うしかない。ほぼ全ての世論調査で国民の反対意見が多数を占め、再稼働を急ぐ理由は乏しい。見切り発車の感が強い再稼働はやめるべきだ。
全ての原発が停止しても電力が途絶えることはなかった。猛暑のことしも原発なしで十分に電力は賄えた。安倍政権は川内原発を皮切りに、なし崩し的に再稼働を進め、原発を電力供給の柱に戻そうとしている。再稼働ありきの合理性を欠いた判断ではないか。
「新しい規制基準に適合しても事故が起きる可能性がある」「再稼働の是非を規制委は判断しない」。原子力規制委員会の田中俊一委員長は原発再稼働をめぐり、こうした見解を表明している。
規制委の役割は原発事故発生の危険性を一定程度以下に低くすることにあり、原発推進の是非には口を挟まないという姿勢だ。一方、安倍晋三首相は「規制委が安全と言った原発は着実に再稼働する」と言い、再稼働の可否を規制委の基準適合審査に委ねる。
決して同義ではない「基準適合」を「安全」にすり替え、規制委が「安全」を保証しているかのような印象操作に走っている。詐術のような言いぶりではないか。
川内原発の周辺には巨大噴火の過去を持つ火山が集中しているが、九電は「危険性は低い」とし、規制委も追認した。だが、火山の専門家から疑問を呈する声が多く上がっている。事故の危険性への万全の対処が尽くされていない。原発事故後、国は原発から30キロ圏内の自治体に防災・避難計画策定を義務付けた。川内原発周辺の9市町も策定済みだが、再稼働に同意した鹿児島県は「九電の多忙」を挙げ、避難計画の実効性を確認する住民参加型訓練を再稼働前に実施しなかった。住民を守る責任を果たしたと言えるだろうか。
不備と無責任が際立つ原発再稼働は、福島の教訓を踏まえて安全を願う国民への背信行為になる。