―地域防災計画(原子力災害対策)について―
2013/4/13~14開催・全国交流会での配布資料
(文責・布施哲也)
(1) 自治体と地域防災計画
災害対策基本法第40条から45条に、都道府県と市町村は、それぞれの地域防災計画を定めるという規定がある。各自治体の長は、それぞれの防災会議(中小自治体は設置しない)に諮り、防災のための業務などを具体的に定める。そして、「毎年市町村(都道府県も)地域防災計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを修正しなければならない」とされる。関係自治体が地域防災計画に原子力防災対策に関する修正を加えるのは、「必要があると認めるとき」に該当するため。
国は関係地方公共団体に対して、改正原子力災害対策特別措置法の施行後、半年程度の経過措置期間内に地域防災計画(原子力編)の修正をすることを求めていた。このため2013年3月18日がめどとなっていた。
都道府県や比較的大きな自治体は別だが、中小の自治体では数多ある計画書の策定に関しては、外注先として「コンサルタント企業」が関わってくる。一方国は、計画のマニュアルを作成し、防災専門官を市町村に派遣し助言をしている。このため、全国一律の「防災計画」が誕生することになる。その結果は、実質が伴わない机上の作文としての「計画」となる。各自治体の「地域防災計画」の原子力防災の項を、比較・検討することが重要となる。
(2) 原子力規制委員会と「原子力災害対策指針」
福島第一原発の事故の結果を受け、原子力規制委員会は、災害対策基本法と原子力災害対策特別措置法に基づき新たな原子力災害対策指針を示した。前提としての事故は、水素爆発などによって大量の放射性物質が放出した過酷事故というものだ。
「主な項目」
- 防災対策重点区域(UPZ)を従来の8~10キロ圏から30キロ圏に拡大。
- 5キロ圏/原発事故が起きた際に直ちに避難する「予防防護措置区域」(PAZ)。
- 30キロ圏/を事故対策が必要となる「緊急防護措置区域」(UPZ)。
- 甲状腺被曝(ひばく)を防ぐ安定ヨウ素剤の配布を50キロ圏でも検討
- オフサイトセンター(OFC)=事故時の対応拠点の改。原発から5~30キロに設置し、30キロ以上離れた場所に複数の代替施設を確保。従来の住民への連絡手段・避難方法・被曝医療体制の確保から、放射能汚染などにも耐えられるよう改修・防災訓練。
- 未定部分=規制委員会で検討する/国か自治体か予算・住民避難の判断基準。
指針の特徴は防災対策重点区域の拡大であり、21道府県135市町村、対象人口は約480万人となる。実際の汚染領域とは別だが、それでも当事者となる住民と自治体が大幅に増え、原子力防災に関する住民・自治体の発言力が増すことになった。
以上が主たる内容だが、この結果、対象自治体は15道府県45市町村から、21道府県135市町村に拡大、人口は約480万人になる。
これらの自治体が、原子力災害対策を加味した地域防災計画を策定する必要がある。対象とならない自治体は、独自の判断で原子力対策をすることは妨げるものではない。福島第一原発事故の現実から、少なくない圏外の自治体が策定をし、策定を計画している。
(3) 自治体と原子力防災対策
原発30キロ圏内の149道府県・市町村(福島一部除く)を対象に、原子力防災計画に関するアンケートを実施している。(2013年2月22日~3月4日・回答148自治体)。
10の設問の中で、「地域防災計画で残された課題」(特に深刻なものを3つまでを選ぶ)と、「近くの原発の運転再開について」の回答は以下となっている。
◆「地域防災計画で残された課題」
・高齢者など要援護者の避難支援・・59%
・避難の交通手段・・・・・・・・・50%
・ヨウ素剤の対応・・・・・・・・・45%
・避難先の確保・・・・・・・・・・36% 以下略
◆「近くの原発の運転再開をどう考えるか」
・再開を認める・・・・・・・・・・12%
・いずれは再開を認めたい・・・・・35%
・当面、再開を認めない・・・・・・22%
・今後一切、再開を認めない・・・・・6%
・今は判断できない・・・・・・・・25% 以下略
原子力災害に備えた地域防災計画は7月に施行される原発の新安全基準とともに、「安全の両輪」と位置づける重要なものはずだが、現実は、アンケート結果からも知れるように、肝心の避難支援とその交通手段の確保がままならない。原子力規制庁原子力防災課の調査(3月19日)でも、道府県は別として、過半の市町村は策定できていない。日本原子力発電東海第2原発を抱える茨城県では、「原発周辺に約100万人が住むため避難場所の確保が明記できず、18日までに作成できなかった」としている。
これらこともあり、「安全の両輪」がいつのまにかトーンダウンし、策定は再稼働の前提条件にならないと聞こえてくる。
自治体の考えは、「近くの原発の運転再開をどう考えるか」に注目したいが、「当面」「一切」というニュアンスの違いはあるが、計算上「再開を認めない」自治体が50を超えている。立地自治体は別として周辺自治体の真っ当な考えだ。
30キロ圏を越える自治体も動きはじめている。そのひとつとして、柏崎刈羽原発から崎刈羽原発から約80キロに位置する富山県の糸魚川市は、「原子力防災計画」を作成するという。
札幌市でも地域防災計画(原子力災害対策編)を策定している。「泊発電所から放射性物質又は放射線が異常な水準で事業所外へ放出されることにより生ずる原子力災害の防災対策に関し、札幌市、北海道及び防災関係機関が必要な体制を確立するとともに、とるべき措置を定め、総合的かつ計画的な原子力防災事務又は業務の遂行により市民の生命、身体及び財産を原子力災害から保護することを目的」とうものだ。
その主な内容は、「警戒配備」として、情報の収集・連絡、緊急連絡体制及び通信の確保、緊急時モニタリングの実施、市民への的確な情報伝達活動。
「災害対策本部設置」として、活動体制の確立、屋内退避等の防護措置の実施、社会的混乱の防止、飲料水・飲食物の摂取制限等の実施、交通の確保、災害時広聴活動、泊発電所周辺自治体からの避難者の受け入れ・支援。となっている。実効性があるのだろうか。
(4) 再稼働阻止と自治体
「地域防災計画」に組み込む「原子力防災対策」が、7月に施行される原発の新安全基準(最近は安全という定義を変更するようだ)とあわせ、原発の再稼働の条件とされていた。でも、状況が変化している。対象自治体からは、「法律があるので策定するが、防災の具体化は疑わしい」「再稼働を前提とした防災計画ではない」などの声が高まっているからだ。計画の策定が再稼働を後押しするものとならない状態となっている。
地元住民、市民(住民)団体による原発立地自治体と周辺自治体への強い働きかけがあるからだが、なによりも福島第一原発事故の現在進行中の過酷事故の現実が、「原子力防災は事故後の対策は不可能」「再稼働させないことが唯一の原子力防災」ということを理解しているからだろう。
再稼働では腰砕け状態となった関西広域連合でさえ、「福井県の原発事故で琵琶湖(滋賀県)が放射性物質に汚染された場合、近畿地方の住民の四分の三が飲み水を確保するのが困難になる」と明かしている。給水対象人口は350万人となるので、実際の対策は取りようがない。資産家と権力者は別だろうが、放射能入りの水を飲むしか選択肢はない。
やはり基本はカネとなる。電気料金を原資とする数兆円の原発発推進費は、これまでは立地自治体に配られてきた。匿名となる寄付金、稼働することで増える原発の固定資産税なとだ。しかし、原子力防災の対象自治体を増やさざるを得なかったため、これまでカネを配ってこない自治体も原発への発言が可能になった。
政府・電力会社の対応は三つつとなる。ひとつは、原発推進費を配る対象自治体を拡大することだ。でも、現在の財政状況(電力会社も)では難しい。二つは、政府・自治体の意向に反することを主張する自治体へ圧力を強めることだ。その際に重要となるのは、各種補助金・交付金となる。自治体の自主財源は三割程度しかないため、財布の紐を道府県は国が、市町村は国と道府県が握っているためだ。このことは現に実行しており、その枠を広げることは可能だ。最後は、国や県による締め付けができないほど、市町村の声が大きく強くなるのなら、マスメディアを使ってその声を無視することになる。
再稼働阻止の運動のひとつとして、自治体の長と議会への働きかけをつづけたい。道府県の知事の過半は中央官僚の出身者であり、泊原発を抱える高橋はるみ北海道知事は経済産業省の出身だ。これらの知事へのむ働きかけはかなり困難だが、身近な市町村はまだ可能性がある。地域防災計画、特に原子力防災が机上の作文であることを承知しているのは、市町村の長であり、議員であるからだ。政府・電力会社によるカネの圧力に対し、住民の生存・健康ということを対抗軸としたい。
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