(たんぽぽ舎メルマガTMM:No1824/1825/1826より)

浜岡原発ツアーに参加して
中部電力は現代のドン・キホーテか?!
被害は静岡県全滅、東西分断、東京・名古屋も深刻

吉田 隆(脱原発イロハネット発行者)

 4月20日~21日、たんぽぽ舎・再稼働阻止全国ネットワークの呼びかけによる浜岡応援ツアーに参加した。品川駅頭に8時半集合、7名(他、現地で1名合流)は、3台の車で静岡に向かう。静岡労政会館で「浜岡原発を考える静岡ネットワーク」の総会と「浜岡原発とめます本訴の会」の総会が開かれており、途中からだが参加させていただいた。

 この団体は、浜岡原発の廃炉をめざす戦いの中軸として17年にわたり活動している。裁判は一審は負け、高裁に移っているが、この間、1号、2号の廃炉を勝ち取っている。敬服の限りだ。
 午後からは、大ホールで記念講演会が行われた。白鳥会長の挨拶に続き、湖西市長の歯切れの良い脱原発の挨拶があった。
 本番、神田香織さんの講演は、ふるさと福島や「チェルノブイリの祈り」、「はだしのゲン」を講談師の本領発揮で語り、200名余の聴衆を引き付けた。終了後、神田さんを含め浜ネットの人たちと交流懇親会を開いた。国労の組合員がしっかり支えており層も厚い。何よりも元気で、必ずや勝利を手にするだろうと確信した。
 翌21日は、午前中、鈴木事務局長らの案内で浜岡原子力館、基礎地盤とされる泥岩と断層の状況、22mの防波壁の見学をすることができた。

この中で、数々の問題が見えてきた。いくつか記しておきたい。

◆継足し防波璧は大丈夫か

 擁壁は、昨年、10~30mの地中壁の上に10~12mのL型擁壁を結合してつくったが、不足が明らかになり、その天端にさらに4mの鋼製璧を継ぎ足している。19mの津波高に対し、3mの余裕を見て海抜(TP)22mまでと、日本一の防波璧にした。
 この考えで当初も設計しているなら、L型擁壁の基部にかかるモーメントは、仮に静水圧とすれば(10-3)の3乗と(10+4-3)の3乗の比だけ増加する。これは約4倍になり、到底もたない。
 そこで、展示資料には「竪壁の下部を補強します」と記し、2~3mの高さまで壁厚を少し継ぎ足したように描いている。だが、床版も基礎杭の補強もしていないので、チェックが必要。波力の式もいろいろ提案されており、決定打はない状況ゆえ、何を用いたかも要チェックと思う。


(補強工事中のペラペラな防波壁

◆遡上・越流の問題

 擁壁前面は海抜10~15mの砂丘になっており、すぐ前は太平洋の荒波が押し寄せていた。
 大津波はこの砂丘によって押し上げられること明白。波高19mに対し、防波壁に押し寄せる波の高をどう計算したかも見逃せない。果たして3mの余裕高で間に合うか、大いに疑問である。越流すれば波力の計算式も変わり、当然洗掘などの影響も考えなくてはならない。

◆取水ポンプと構内水没問題

 浜岡では数十m先の海中に取水塔を設けている。取水トンネルで構内の貯水槽に導き、冷却水として使っている。ところで、1~4号機の敷地地盤高はTP6m、5号機で8mであるので、大津波時にはたちまち水没してしまう。そこで、建屋は防水扉を設けるとか、取水ポンプは3mの防水壁で囲むとする。が、これでも防ぎきれないので、防水構造の建屋をつくりそこに別途ポンプを設置するとしている。
 しかし、大津波が幾度か押し寄せ、越流も生じたときは10数mもの水深になりかねない。完全防水の水没建屋なら強大な浮力にも耐えなくてはならないが、果たして大丈夫なのか。

◆冷却水確保の問題

 引き潮時に砂丘がさらわれるとか、海底のかく乱で取水塔は砂で埋められてしまう恐れもある。浜は遠浅で、取水口下端はTP-6m、海底との差は2m余しかない。
 東日本大地震で経験したように、地盤の上下水平変動も当然検討されなくてはならない。取水槽の水では、20分間の冷却しかできない。そこで、水タンクを増設したり、近くの新野川の水を可搬式ポンプでくみ上げるという。配布の資料には満水の川が描かれているが、現地の方は、ほとんど水が流れていないと教えてくれた。

◆巨大活断層上にある原発

 資料には、重要構造物は硬い岩盤の上に直接作られており、頑丈だとしている。すぐ近くで開削の露出面を2ケ所見たが、柔らかい泥岩で手で容易に剥ぎ取り、ぼろぼろになる代物。しかも、断層や大きな割れも見られた。決して頑丈な一枚岩のようなものではない。資料には「発電所敷地の下には『H断層系』と呼んでいる断層があります」と記し、5本ほど図示している。そして「少なくとも8万年前以降は動いておらず、活断層および活断層によってずれ動く破砕帯ではないことを確認しています」と述べている。
 40万年が標準なのに、8万年で安心せよとはとんでもない。まして浜岡はプレート型地震地帯の筆頭格である。震源域の真上に位置しており、巨大地震の活断層上にあるのだ。

◆反省もなく つぎつぎ新たな安全神話

 資料では、東海・東南海・南海の3連動地震を考慮し、最大の揺れを800ガルと算出したとし、さらに当社独自で約1000ガルまで耐えられるように裕度向上工事をしたと自信ありげに記す。(この値は政治的動機と言われている。「一審敗訴となると逆転ができなくなることもあるわけで、全電力のためにも敗けるわけにはいかないでしょう。裁判に勝つために1000ガルにも耐え得る大規模な耐震補強をしているのです」と雑誌記者に述べていた)

 わずか35年前の3号機申請時には最強地震力300ガル(限界450)とした。これは、如何にも小さく修正を迫られた。結局450ガル(限界600)として再提出し、建設、稼働してきたのである。台風ではあるまい、地震力は増大していない。要するに知識が足りなかったということだ。津波対策も同様。東日本大震災までは、10m余の砂丘があるから大丈夫とし、35年間も丸裸で運転してきた。それを今更日本一(おそらく世界一)の防波堤として、現場見学会を何回も行い、宣伝している。

 もし、東南海大地震が先だったらひとたまりもなかった。だが、中電は何も反省しない。ただただ、新たな安全神話を宣伝するのみだ。
 大きな地震が起こるたびに設計値は破られているのが真相である。2000ガルを超えた地震もある。大自然の営為に人間の力が及ばないことこそまず自覚すべきではないか。

◆浜岡原子力館のトリック宣伝

 広くて緑いっぱいの敷地に60mの展望タワーを設け、子供から大人まで楽しめるようにしている。日曜日とあってか見学者も少なくなかった。ただ、パンフや展示物にひどいものがあり、気になった。一つだけ記しておきたい。
 「浜岡原発はどんな地震がきても大丈夫ですか?」と題する大パネルを掲出し、「懸念されるいかなる地震にも十分な耐震性を持っています」と書く。その近くには、模型つきのパネルに「原子力発電所の鉄筋コンクリートと普通の建物の鉄筋コンクリートの違いをごらんください」と記し、原子力建屋と同高さの15階建マンションを図示。そして、原子力建屋の壁厚は2m、鉄筋は4cm、片やマンションの方は壁厚20cm、鉄筋は13mmと記す。ご丁寧に実物大の断面模型が置かれている。かく印象深くさせたうえで「将来考えられるいかなる地震が発生したとしても発電所の安全性が十分確保できるよう建てられています」とまたも強調する。

 しかし、これは子供だましもいいところ。壁厚20cmで作れるマンションは5階建てまでが基本。15階建ては、太い柱で鉄筋コンクリートか鉄骨構造でないと違反建築になる。柱の主鉄筋が13mmの高層マンションは日本中探してもない。原子力建屋の最大部の壁厚さとマンションの薄い壁を比較しても何ら意味を持たない。こんなことは明々白々だが、中電はこのようなことも平気でする。そこまでして住民を騙さない限り「安全」と言えないということなのか。

◆取り返しのつかない重大被害

中電は、1000ガル対応のため5000ケ所以上の補強をしてきた。その上、防波堤だけでも1400億円をかけている。合計すれば莫大な金額となる。26日、赤字は850億円と発表したが、何のことはない、原発再稼働のための補修工事費はそれ以上だ。しかし、1000ガルは絶対ではなく、早晩崩れるであろう。かくみると、大地震や津波の魔力に立ち向かう中電の姿は、風車と戦うかのドン・キホーテにそっくりだ。所詮勝てない闘いである。中電が地震や津波のお化け、と戯れるのは好き勝手だが、新たな安全神話のもと再稼働すれば最も被害を受けるのは国民である。

 50キロ圏に静岡も浜松も入る。東海道新幹線、東名高速、国道、東海道線と日本の大動脈も20キロ圏に入る。名古屋も東京も遠くはない。ひとたび重大事故に見舞われれば、フクシマの比ではない。にもかかわらず、中電は3~5号機の再稼働を狙い、さらに6号機の新設まで計画している。電力が余っていることは明白になっているのに、なお、原発の亡霊にしがみつくのか。
 片や、21日には、30キロ圏の市長選があり、掛川市と袋井市で再稼働を認めないとする市長が当選した。焼津市、菊川市の市長らに続き周辺自治体で抵抗が強まっている。

 6月には県知事選もある。再稼働反対の力が結集することを期待したい。

(脱原発イロハネット No-62、2013/4/27より)

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