[東京 9日 ロイター] -電力会社による政府系金融機関への資金支援要請が相次いでいる。原発が止まり、収益が悪化して値上げでも対応できないと「駆け込む」姿は、「国頼み」のスタンスを鮮明にした。このまま「経営無策」を続ければ、値上げや公的資金の注入を繰り返し、国民負担を増大させることになるだろう。
<再値上げ言及に官邸は激怒>
「首相官邸サイドから経済産業省幹部に強い叱責があったようだ」──。北海道電力が電気料金の再値上げ検討を表明した今年2月17日の直後、北電を抑えられなかった経産省に対し、官邸側が激怒したと大手電力の関係者は語る。
4月1日からスタートした17年ぶりの消費税率引き上げ。その増税の心理的なマイナス・インパクトに追い打ちをかけかねない電気料金値上げを表明した北電に、官邸側のいら立ちが表面化したとみられている。
北電は昨年9月、家庭向けなど規制部門向けで平均7.73%の値上げを実施。翌18日には茂木敏充経産相が記者会見で「最大限の経営効率化など値上げ回避に努力することが重要」と発言し、再値上げにクギを刺した。
だが、そのけん制発言を振り切ってまで、値上げ表明せざるを得ない事情が北電にはあった。
<経営を左右する不透明な原発再稼動>
2011年3月11日の東日本大震災を契機に、定期検査で停止した3基の原子炉が再稼働せず、コストの高い火力発電で代替した結果、収益が急速に悪化した。
3期連続の経常赤字によって、2011年3月期に23.2%だった自己資本比率(単体)は14年3月末時点で5%を割り込む見通しまで低下することになった。
このまま赤字を垂れ流すことになれば、債務超過の可能性も出てきたため、日本政策投資銀行に「優先株」の引き受けを要請したことが1日、明らかになった。
原発がいつ稼働できるのか──という問題と、電力会社の経営は密接に絡んでいる(表参照)。
ロイターが電力会社へのアンケートや専門家、市場関係者への取材をもとに2日にまとめた調査では、全国48基中、「17基の再稼働が困難」との見通しだ。
その中で、北電の泊原発の3基は「再稼働可能」の分類に入っているが、それでも経営への影響が深刻さが増している。
北電は昨年7月、原子力規制委員会に泊1─3号機について、審査を申請した。だが、再稼働のメドは見えてこない。1、2号機は初期段階で審査書類の不備を指摘され、審査が現段階で大幅に遅れている。
3号機は、緊急時に原子炉格納容器を冷却する配管の追加を求められた。北電側は、工事は「数カ月では終わらない」と説明。早期の運転再開が展望できない以上、「赤字構造解消には早期の値上げが必要」としている。
北電に続いて九州電力による政投銀への1000億円規模の資本支援要請も明らかになっている。
規制委は3月、九電川内原発1、2号を「優先審査」の対象に選び、現在、集中審査中。早ければ夏にも再稼働する可能性がある。
九電がほぼ同時に申請した玄海原発3、4号も、全国48基の中では審査は先行している。北電とは対照的に、原発の運転再開の時期によっては、政投銀による資本注入を回避できるシナリオもありそうだ。
<関西電力の先行きに厳しさ>
原発を保有する地域電力9社中、原発依存度(11年3月期までの5年平均)が43%と最も高いのは関西電力だ。ある経産省幹部は「東電を除けば、経営状況が最もきついだろう」と指摘する。
実際、14年3月期までの3年間の当期赤字の累計額は約5800億円となり、自己資本比率(連結)は11年3月期の24.8%から13年12月に16.5%に低下。
昨年7月に高浜3、4号と大飯3、4号の再稼動審査を規制委に申請したものの、合格のメドは見えていない。
八木誠社長は3月26日の記者会見で、この夏の原発再稼働について「大変厳しい状況」と述べた。
再稼働が遅れ、代替策としての再値上げに手間取れば、15年3月期の黒字化が難しくなる。4年連続の赤字となれば、将来の黒字化を前提に計上した約5000億円の繰り延べ税金資産の取り崩しを迫られる可能性もある。
原発依存の経営によって「最適な火力電源の構築が進まなかった」(エネルギー・アナリスト)という構造問題も抱える。
ここにきて東北電力と九電は火力電源について、自社応札を打ち出した。だが、関電は「経営状況を鑑みると、(自前の発電所建設には)大規模な資金調達が必要」(八木社長)と説明し、外部資金に頼らざるを得ない状況であることを明らかにしている。
<中長期も廃炉という負担>
また、関電は古い原発を抱えているという不利も付いて回る。ロイターの調査では、美浜1─3、高浜1、2、大飯1、2の計7基について、運転開始から40年前後という古さを主因に再稼働困難と判定した。
再稼働ができなければ、いずれ廃炉を迫られる。経産省は、廃炉決定の場合、関連費用の引き当て不足を一括計上する従来の仕組みを昨年10月に変更。廃炉決定後も10年間は電気料金で回収できるようにした。
将来の廃炉コストは、「原子力発電施設解体引当金制度」に基づき、電力会社が見積り額を算定し、電気料金に上乗せしてきた。見積りの合計額は約2兆8000億円(12年度末、東電福島第1原発5・6号機含む)に上る。
だが、解体費用、解体に伴って生じる廃棄物の処分、施設撤去までの維持費、運転中に出た低レベル放射性廃棄物の処分などで構成される廃炉コストが、上記の見積額に収まる保証はない。
廃炉作業が始まっている東海原発(出力16.6万キロワット)の場合、解体に347億円、廃棄物の処分に538億円の計885億円という見積もりになっている。
一方で、古い原発は引当金が積み上がっており、仮に現時点で廃炉が決まっても、10年間の分割で関連費用を計上できる。各社の収支を圧迫するような巨額の費用負担を回避する仕組みができている。
だが、原子力関連施設のコストは当初の見積もり通りとなる保証はない。電力業界が青森県六ヶ所村に建設した使用済み核燃料の再処理工場施設(着工1993年)の建設費用は、当初7600億円という見積もり額が、2006年には3倍近い2兆1900億円に跳ね上がった前例がある。
廃炉に関していえば、原子炉解体後に出る廃棄物の処分場がそもそも見つかっていない。福島第1原発事故後、国のエネルギー政策議論に参加した伴英幸氏(NPO法人、原子力資料情報室共同代表)は、「処分場の部分が不確定要素となる。(廃炉コストは)現在の見積額では収まらないだろう」と話し、電力会社か国民に将来、新たな負担が発生する可能性を示唆した。
<総括原価廃止方針でも乏しい改革機運>
現在の枠組みでは、電力会社の経営能力を超えると認定される赤字部分は、政策投資銀行など損失が発生した時には税金で補てんされるマネーと、電気料金の引き上げという2つのルートで埋め合わせることになる。
いずれも最終的には納税者・利用者の負担になる。鉄鋼業界から東京電力会長に転じた数土文夫氏は「(東電は)地域独占や総括原価主義に安住してきた」と指摘する。
電気料金高止まりの要因と指摘されてきた「総括原価方式」は、政府が導入を決めた電力システム改革の第2弾の「小売り全面自由化」が実施される2016年度以降、競争の仕組みを入れることが困難な送配電部門のコストを除き、順次廃止される。
首都圏など大都市圏の電力市場には、都市ガスや石油、商社など異業種からの参入が見込まれるが、経産省は、電力会社同士の本格的な競争の進展こそ、電気料金の高止まりを是正すると期待する。
ただ、2000年3月に始まった、大口需要家を対象とした電力小売り部分自由化では、大手電力が営業区域外の顧客に供給した事例は、九州電による中国電力(9504.T: 株価, ニュース, レポート)管内にある商業施設に対してのわずか1件にとどまる。
経産省側は、「日本には9社も大きな電力会社がある」(中堅幹部)と、競争進展に向け、業界の意識改革を求める。
これに対し、電力各社のトップは、原発の稼働停止が長期化する中で、電力システム改革への取り組みよりも、自社管内の安定供給を優先させる意向が強く、電力自由化に対応する改革機運に乏しいのが実態だ。
(浜田健太郎 取材協力 浦中大我 編集:田巻一彦)